Q73 教職員の身分はどうのように保障されていますか

●公立学校の教職員は学校教育に従事する公務員労働者です。したがってその身分保障については、まず公務員という側面から地方公務員法(地公法)の適用を受けます。さらに教員の場合には、専門職として教育に従事するという側面から教育基本法(教基法)、教育公務員特例法(教特法)が適用されます。

教特法によって、政治的行為の制限については、国家公務員と同様の規則を受けます。しかし、罰則の規定はありません。(18条)また、労働者であることから憲法28条(勤労者の団結権・団体交渉権及び団体行動権)でその身分が保障されています。わたしたちの身分(地位)や勤務条件はすべて法律できめられているのです。これを勤務条件法定主義と呼びます。

●教職員の任免は自治体の長ではなく、自治体の教育委員会がおこなうこととされています。もっとも、都道府県に採用された教職員の日常の監督や人事評価は、市町村教育委員会が行なうものとされています。

●教職員は、法律で定める場合以外は、本人の意思に反して、降任、免職などの不利益な取り扱いを受けないことを保障されています。(身分保障・地公法27条2号)これは、公務員が「全体の奉仕者」として、上司等からの不当な圧力に屈することなく、住民に継続的な公共サービスを提供することを目的としているからです。

 この点について、ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」(1966年9月)は、「教職における雇用の安定と身分保障は、教員の利益にとって不可欠なもの」(45項)と位置づけています。

Q74 不当労働行為とは何ですか どのような場合、不当労働行為となりますか

●不当労働行為とは使用者による団結権の侵害行為を指します。労働者の自主的団結活動にたいして使用者の干渉、介入を許したままにしておけば団結権保障の内容は形骸化してしまいます。そこで不当労働行為救済制度を設けて、こうした使用者の行為を排除し、自主的団結権を保障しようとするものです。

労働組合法(労組法)7条は使用者の不当労働行為として次の 4 つの類型をあげています。

 1.組合加入、組合活動などを理由とした不当解雇及び不利益取り扱い、組合不加入、脱退を条件とした雇用

 2.団体交渉の拒否

 3.組合への支配・介入

 4.不当労働行為申し立て等に対する報復的措置

●しかし、国家公務員や地方公務員は労組法の適用除外であるため、形式上、上記の禁止は適用されません。ところが、使用者の不当労働行為が禁止されるのは、憲法28条の団結権を保障したことの当然の結果であって、あえてそれ以上の法令の定めを必要としません。その意味では労組法7条は憲法28条の団結権保障の効果を確認する意味で明記したにすぎないものといえます。

 したがって、憲法28条が団結権を保障している以上、公務員にも次のことは不当労働行為となります。

 1.組合員であること、もしくは組合活動を積極的に推進したことにより差別すること。

 2.組合に入らないよう、もしくは組合を脱退するよう働きかけること。

 3.正当な理由がなく交渉を拒むこと。

 4.組合の運営に支配・介入すること。

 5.不利益な取扱いを訴えたことによりさらに不利益取扱いをすること。

    例えば、何ら支障がないにもかかわらず分会会議を開かせなかったり、組合の掲示物にクレームをつけたり、集会・デモ等に参加させなかったりするのも、組合の正常な運営を阻害するので組合に対する介入であり、不当労働行為になります。

〈管理職のカンパ〉
 管理職が組合のボ一ナスカンパに応じることについて、労組法7条3項の「労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること」にあたり不当労働行為になるので応じるべきではないとする考えがあります。しかし、そもそもこの条文の趣旨は、使用者(管理職が使用者であるかどうかは論議が必要です)が組合の財政に介入して使用者の意向に沿うよう活動させるといったことがないようにする点にあります。しかも、この条文の続きに「厚生資金または経済上の不幸もしくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする」とあります。
 カンパで組合活動の方向を左右するほどの額を拠出するなら問題も出てくるかもしれませんが、それほどの額でないなら組合の活動に影響を与えることもないし、ボーナスカンパは「厚生資金」に準ずるものであるので、管理職がカンパに応じても、何ら問題はありません。

<不利益処分に対する救済措置>

●地公法56条は「職員は、職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもって不利益な取扱を受けることはない」と規定しています。これによって不利益を受けた場合は、人事委員会に不利益処分に  対する審査申し立てができます。(地公法49条2項以下)

この手続きによる救済を受けられるのは組合員であること、あるいは組合活動をしたことを理由とする「不利益」であり、人事や処分による不利益が代表的なものといえます。したがってこの申し立て方法では組織への介人的言動、組合活動への嫌がらせ、団交拒否などについては対応することはできません。  この場合には不当労働行為は労働組合に対する違法な攻撃、すなわち不法行為ですから、裁判所に損害賠償の請求を求めることができます。また、不当労働行為が行政処分としてなされる場合は執行の停止、取り消しを、組合に対する誹謗・中傷などの事実行為としてなされた場合は仮処分などの裁判手続きで争うことができます。この他、世論喚起のために人権擁護委員会や弁護士会に救済申し立てをすることも一つの方法です。

●不当労働行為とのたたかい方の原則は、組合の組織的反撃(抗議・団体交渉要求)によってこうした侵害を排除することです。不当労働行為救済制度が制度として完備した民間労働者の場合でも実際には不当労働行為があとをたたないのが現実です。又、労働委員会の場で勝利命令が出されたのにそれが実行されないというケースも少なからずあり、逆に負けても実質的にたたかいが勝利した場合もあります。

このように、たたかいの主たる場は職場であり、そこでの自主的団結と連帯こそが不当労働行為を許さない基本的な力であるといえます。

Q75 教員免許制度の概要について教えてください

〈相当免許主義〉(教育職員免許法 第2条、第3条)

●幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教員は、原則として、学校の種類ごとの教員免許状が必要です。(中学校又は高等学校の教員は学校の種類及び教科ごとの教員免許状が必要です。)

●義務教育学校の教員は、小学校と中学校の両方の教員免許状が必要です。中等教育学校の教員は、中学校と高等学校の両方の教員免許状が必要です。

●特別支援学校の教員は、特別支援学校と特別支援学校の各部(幼稚部・小学部・中学部・高等部)に相当する学校種の両方の教員免許状が必要です。

●児童の養護をつかさどる教員、児童の栄養の指導及び管理をつかさどる教員は、それぞれ養護教諭(養護助教諭)の免許状、栄養教諭の免許状が必要です。

〈教員免許状の種類〉(教育職員免許法第4条、第5条)

●教員免許状の種類 教員免許状は3種類あり、申請により、都道府県教育委員会から授与されます。授与を受けるためには、

①所要資格(学位と教職課程等での単位修得、又は教員資格認定試験(幼稚園、小学校、特別支援学校自立活動のみ実施)の合格)を得る

②都道府県教育委員会が行う教育職員検定(人物・学力・実務・身体面)を経る必要があります。具体的な授与基準等の細則は、都道府県ごとに定められています。

免許の種類有効期間有効地域範囲概要
普通免許状10年全国の学校教諭、養護教諭、栄養教諭の免許状です。所要資格を得て必要な書類を添えて申請を行うことにより授与されます。専修、一種、二種(高等学校は専修、一種)の区分があります。既に教員免許状を有する場合は、一定の教員経験を評価し、通常より 少ない単位数の修得により、上位区分、隣接学校種、同校種他教科の免許状の授 与を受けることができます。
特別免許状10年授与を受けた都道府県内の学校教諭の免許状です。社会的経験を有する者に、教育職員検定を経て授与されます。 授与を受けるには、任命又は雇用しようとする者の推薦が必要であり、教科に関する専門的な知識経験又は技能、社会的信望、教員の職務に必要な熱意と識見を有 することが求められます。幼稚園教諭の免許状はありません。小学校教諭の免許状は教科ごとに授与されますが、特別活動など教科外活動を担任することも可能です。
臨時免許状3年授与を受けた都道府県内の学校助教諭、養護助教諭の免許状です。普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り、教育職員検定を経て授与されます。(当分の間、相当期間にわたり普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り、都道府県が教育委員会規則を定めることにより、有効期間を6年とすることができます。(教育職員免許法附則第6項))

 ※特別免許状の授与例

  例1 職業:看護師

     →高等学校の教科「看護」の特別免許状を授与

  例2 職業:外国人の英会話学校講師

     →中学校の強化「英語」の特別免許状を授与

〈免許状主義の例外〉

●特別非常勤講師制度

 多様な専門的知識・経験を有する人を教科の学習に 迎え入れることにより、学校教育の多様化への対応や 活性化を図ることを目的とした制度です。 教員免許状を有しない非常勤講師が、教科の領域 の一部を担任することができます。 任命・雇用する者が、あらかじめ都道府県教育委員 会に届出をすることが必要です。(教育職員免許法第3条の2)

 ※特別非常勤講師制度の活用例

  職業:調理師

→高等学校の教科「家庭」の領域の一部として「調理実習」の授業を単独で実施することが可能。

職業:書道家

→中学校の教科「国語」の領域の一部として「書道」の授業を単独で実施することが可能。

●免許外教科担任制度

 中学校、高等学校等において、相当の免許状を所有する者を教科担任として採用することができない場合に、校内の他の教科の教員免許状を所有する教諭等が、1年に限り、免許外の教科の担任をすることができます。

校長及び教諭等が、都道府県教育委員会に申請し、許可を得ることが必要です。(教育職員免許法附則第2項)

※免許外教科担任制度の活用例

 山間地・へき地等の生徒数が少ない中学校で、全ての教科に対応した教員を1人ずつ採用できないなどの場合

中学校教諭の理科の教員免許状

同じ中学校の数学の担任 ○

隣の中学校の数学の担任 ×

隣の小学校の算数の担任 ×

●ゲストティーチャーやティームティーチングにおける副担任の教員免許状は、相当の教員免許状を所有する教員と常時一緒に授業に携わる場合には、必要ありません。

〈免許状の有効性〉

●現職教員は、定められた期間内に大学等が開設する30時間以上の免許状更新講習を受講・修了し、都道府県教育委員会に申請して、10年に一度、教員免許状の有効性を更新することが必要です。(免除・延長も申請が必要。)

●採用予定者も、教員免許状を取得後10年を経過している場合は、採用前に免許状更新講習の受講・修了と教育委員会への申請を行い、教員免許状を更新することが必要です。

※教員免許状は、学校の教員になる資格があることを証明する重要な書類です。教員免許状更新時に発行される証明書と一緒に大 切に保管してください。懲戒免職(相当)や禁錮以上の刑に処せられたときなどは失効又は取上げとなり、勤務地又は住所地の教育委員会への返納義務があります。(教育職員免許法第10条、第11条)

〈違反者に対する刑事罰〉

●相当の教員免許状の必要性を認識しながら故意に、次の①又は②の行為をした者は、30万円以下の罰金に処されます。

①相当の教員免許状を所有しない者を教員に任命・雇用した者

②相当の教員免許状を所有しないにもかかわらず、教員になった者(教育職員免許法第22条)

Q76 教員の採用のしくみについて教えてください

●任用権者が特定の人を特定の職員の職につかせることを任用と言い、通常、採用、昇任、降任、転任のいずれかの方法によってなされます。(地公法17条)

また緊急の場合には臨時的任用の方法がとられています。したがって採用というのは、地公法上の任用の一種ということになります。

●一般公務員の採用は原則として人事委員会のおこなう公開競争試験によるもの(地公法17条3項)とされていますが、教員の採用は教特法13条によって任命権者である教育委員会の教育長がおこなう選考によるものと定められています。

試験は受験者を競争させて相互の優劣を相対的に判定するものですが、選考はその職務を遂行するために必要な能力があるかどうかを一定の基準に基づいて判定するものです。教員採用の場合、選考によって採用することにしたのは、一つには、教員の資格が教員免許状によって公証されることになっていること、  二つには、教員には専門的知識とともに人格的要素が強く要求され、単純な競争試験ではその判定に適さないと考えられているからです。選考権者を人事行政機関である人事委員会でなく任命権者の一機関である教育長にしたのも教育の専門性に配慮するためと解されます。

こうして選考試験の合格者は採用候補者名簿に登載され、その中から採用するという仕組みが取られています。

●埼玉県の志願区分・教科(科目)等は次のとおりです。

2021年度埼玉県公立学校教員採用選考試験要領より抜粋
志願区分教科(科目)等備考
小学校等教員合格者のうち、約40名は特別支援学校小学部に配置される。
中学校等教員国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術、家庭、英語合格者のうち、約10名は特別支援学校中学部に配置される。
高等学校等教員国語、地理歴史 、公民、数学、理科、保健体育、音楽、美術工芸、書道、英語、家庭、情報、農業、電気、機械、情報技術、建築、商業、看護合格者のうち、約15名は特別支援学校高等部に配置される。
特別支援学校教員特別支援教育、自立活動「自立活動」は、社会人特別選考のみ実施。
養護教員小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、特別支援学校のいずれかに配置される。
栄養教諭小学校、中学校又は義務教育学校に配置される。

●選考区分は次のとおりです。

 ①一般選考:②の「特別選考」によらない選考。特別選考の受験資格を有していても、特別選考を志願せずに、一般選考を志願することが可能。

 ②特別選考:埼玉県公立学校教員採用選考試験には以下の特別選考があります。

2021年度埼玉県公立学校教員採用選考試験要領より抜粋
種別対象
障害者特別選考全志願区分
臨時的任用教員経験者特別選考A選考全志願区分
臨時的任用教員経験者特別選考B選考全志願区分
社会人特別選考高等学校教員(看護)特別支援学校教員(自立活動)
大学推薦特別選考小学校等教員中学校等教員(技術)特別支援学校教員(特別支援教育)高等学校等教員(数学・理科)全志願区分

●臨採者は現に小・中学校でクラスを担任し、分掌を担当し、学校運営を担うなど、重要な一員となっています。教職員として十分に職務を遂行できることを日々証明しているわけです。埼教組は臨採者の経験を考慮した本採用への道を要求しています。

Q77 条件付き採用期間は何か制限があるのですか

●地方公務員の採用は臨時的任用または会計年度任用職員の場合を除き、すべて条件付採用ということになります。そして、その職員がその職において6か月を勤務し、その間、その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用となります。(地公法 22 条1項)

この条件付採用の期間は人事委員会規則で1年まで延長できることになっていますが、その要件は厳格で普通、実勤務日数が90日に達しない場合等に限られています。

●教職員の採用もこれと同様ですが、初任者研修の法制化にともない、1989年4月から初任者研修の対象教員は条件付採用の期間が1年に廷長されました。(教特法13条)

●条件付採用といっても地公法27条2項「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して降級されることがない」など地公法の若干の条文(28条1項から3項、40条1項及び2項)と行政不服審査法の規定が適用されない(地公法29条2項)というだけであって他の法令はすべて正式採用者と同様に適用されます。したがってこの期間の職名も正式採用の場合と変わらず、教諭、助教諭、養護教諭及び講師等の職名となっています。

 初任者が通勤手段として、自家用車を希望する際、管理職から「初任者は車通勤できない」と言われることがありますが、厳密には正しくありません。正しくは、通勤手段として自家用車を選択することはできます。

しかし、仮に通勤において自家用車で事故等を起こし、起訴された場合は上記に示したように地公法の若干の条文と行政不服審査法の規定が適用されないため、すぐさま免職処分になってしまうことから、自家用車による通勤は条件付採用期間内においては避けたほうがよいというのが正しい理解です。

僻地校等で公共交通機関がない場合など、通勤に支障がある場合は、自家用車による通勤は可能です。しかし、いつも以上に安全運転を心がけることが大切です。

●条件付採用期間中でも組合に加入できますし、毎年この期間中に新採用者が組合に加入しています。いまだかつて組合加入を理由に正式採用をされなかった例はひとつもありません。

 組合加入を考えていても、管理職から差別的な扱いを受けるのではないかと不安をもつ初任者がいます。もし、校長などが組合加入を妨害するようなことや組合加入による差別的な扱いがあれば、それは不当労働行為であり、責任を追及されることになります。

Q78 臨時的任用とはどのようなことですか 臨時的任用者にはどのような種類がありますか

●臨時的任用は地公法22条3項にもとづくものと特別法にもとづくものとに大別されます。

●地公法では、人事委員会規則の規定に基づき、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、「緊急の場合」「臨時の職務に関する場合」「任用候補者名簿がない場合」において認められ、しかも人事委員会の承認が必要とされています。人事委員会は承認に際し、これら要件の存否を判断し恣意的運用をチェックする役割を担うことになっています。

臨時的任用には期間の制限があり、6か月を超えない範囲で認められ、人事委員会の承認があったときはさらに6か月を超えない範囲で更新することができますが再度の更新はできません。

●特別法にもとづく臨時任用期間は産休補助教職員(産休法3条)と育児休業代替職員(産休法15条)の2種があります。この場合には地公法にもとづく場合と違い、人事委員会の承認、期間の制限の規定は適用されません。

●2020年度より、本務者が1年以上の育児休業を取得するときには、その全期間を任期付職員として任用されることになりました。

●臨時的任用者には次のような種類があります。

①育児休業代員および任期付職員(育児作業中の教職員の代替)

②産休代員(産休中の教職員の代替)

③休職代員(病気休職、組合専従休職など休職中の教職員の代替)

④病気休暇代員(1か月以上~3か月病気休暇中の教職員の代替)

⑤介護休暇代員(1か月以上の介護休暇中の教職員の代替)

⑥公務災害による者の代員

⑦長期研修代員

⑧欠員補充(教職員の年度途中の退職等、その職員の職を欠員にしておくことができない緊急の場合。教職員の任用候補者名簿に適当な候補者がいない場合。いわゆる定数内臨任者)

⑨特別加配

⑩その他(妊娠教員体育代替など会計年度任用職員を含む)

⑪市町村費の臨時的学校職員

Q79 臨時的任用者の賃金・権利などはどのように保障されていますか

●前項でもふれたように臨時的任用の期間は6ケ月を超えないものとされ、1回だけ更新することができるものの再度の更新はできないため1年が限度です。1年以上にわたって勤務を続けているように見えても、実際には改めて新しく採用されていることになっています。

 これまで臨時的任用者にはいわゆる「空白の一日」が存在し、この一日のために一時金の勤勉率期間率が下がり、国民健康保険・国民年金に切り替えなければならない等、様々な不利益がありました。

2020年度から、遂にわたしたちのこれまでの長きに渡る粘り強い要求とたたかいにより、「空白の一日」を解消させました。これにより、一時金の満額支給、任命権者が異なる場合でも公立学校共済組合加入期間が継続される、昇給など、臨時的任用職員の大幅な待遇改善を実現させました。

●臨時的任用者には正式採用者と同様に地公法が適用されますが、身分保障の上で正式採用者と若干違った適用を受けます。具体的には次のような規定が適用されません(地公法29条の2)

1.職員が良好な成績で職務に遂行している場合には免職等の不利益な処分を受けることがないという身分保障(地公法27条2項、 28条1~3項)

2.不利益処分に関する不服申し立てに関する規定(地公法49条)

3.行政不服審査法の規定の適用

●その他の権利などは、大部分は正式採用者と同じですが、年休は次のように雇用期間によって異なります。

雇用期間年休日数雇用期間年休日数
1ヶ月以内2日7ヶ月以内12日
2ヶ月以内3日8ヶ月以内13日
3ヶ月以内5日9ヶ月以内15日
4ヶ月以内7日10ヶ月以内17日
5ヶ月以内8日11ヶ月以内18日
6ヶ月以内10日12ヶ月以内20日

●臨採者は産休を取得することができ、欠員補充(定数内臨採)者には代替配置もされますが、多くは代替がなく、また、「産休等長期休暇が予定されない者」を採用するため、産休が保障されているとはいえないのが現状です。育児休業は育休法で適用除外となっています。

●勤務期間が6月以上の場合は退職金が支給され、条件により失業手当も支給されます。代替で任用期間の途中で都合により雇用が終了する場合は、解雇予告手当が受けられます。

Q80 人事異動のしくみについて説明してください

●一般公務員は、公務員法等によって不利益処分の種類や事由を限定するという身分保障が規定されていますが、特に教育公務員については、裁判官などとともに、一般公務員以上に身分が尊重され保障されています(教育基本法9条)。

●教育公務員特例法は、大学の教員について、任用に関する教授会選考のほか(4・5条)本人の口頭陳述請求権を含む「大学管理機関の審査の決定によるのでなければ」分限、懲戒および転任の処分を受けないと規定しています。

●私たちの身分保障は、大学の教員のように具体的に規定されてはいませんが、前記の教育基本法、ユネスコ[教員の地位に関する勧告]の精神にのっとって人事行政が行われるよう、教職員組合が永年にわたってたたかってきた人事闘争の成果として、現在では、基本的には大学教員と同様に「本人の希望を尊重」して異動を行い、「本人の意思に反する異動は不利益人事(不当人事)」であることが、埼玉県においては一般に認められています。教育委員会もその立場で人事異動を行っており、この成果を後退させてはなりません。

したがって、めんどうだと思う人がいるかもしれませんが、異動希望の有無にかかわらず毎年調書を出すということは、私たちの身分保障の証しであり、私たちがたたかいとってきた権利のあらわれです。

ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」(3)指導的原則
1.教員の労働条件は、教員が効果的な学習を最もよく促進し、その職業的任務に専念することができるものでなければならない。 

同勧告(7)雇用と経歴“身分保障”
45.教職における雇用の安定と身分保障は教員の利益にとって不可欠であることはいうまでもなく、教育の利益のためにも不可欠のものであり、たとえ学校組織、または学校内の編成に変更がある場合でも、あくまで保障されるべきである。
46.教員は、その職業的身分ないし経歴に影響する専断的行為から十分に保護されなければならない。

●教職員の人事異動については、県教委が毎年「○○年度当初教職員人事異動の方針]を策定するとともに、市町村立学校教職員については「○○年度当初市町村立小・中学校等教職員人事異動方針細部事項」が定められ、これにもとづき実際の人事異動実務がすすめられていきます。

県教委は、2000年度当初人事異動方針及び細部事項により従来の人事異動方針を大きく改変しました。これらの「方針」は従来以上に「教職員の職務経験を豊かにする」「視野を広げる」「年齢構成不均衡の解消をはかる」ことを重視するとともに、これまで「適材を適所に配置する」とした表記  を「適材を適時に適所に配置する]として、「適時に」を強調したものとなっています。この立場から、「同一校在職年限の短縮」「新規採用者の早期・複数校経験の推進」「市町村を異にする異動の強化」「退職勧奨制度の活用」を強化する内容となりました。

異動対象とする同一校経験年数については、「同一校3年以上7年未満」「同一校7年以上」、新採用者は同一校5年目で経験人事対象としています。市町村の教育委員会の中には、7年での異動が原則と強調したり、新採から5年目で必ず異動など、機械的な人事を行う事例や声かけが報告されていいます。

埼教組はこれらの問題に対しても毎年交渉を本人及び学校の状況をふまえて、同一校勤務年数によって機械的な人事を行わないよう、県教委と確認しています。

●埼教組は毎年度県教委との間で当初人事に関する要求書に基づき交渉を行います。2021年度当初人事については次のとおりです。

2021年度当初人事に関する要求書(回答)
1.人事は教職員の勤務条件に重大なかかわりをもっています。したがって、当組合が設置する各級人事対策委員会との交渉を積極的にすすめ、また、各級教育行政当局に対して責任をもって指導し、昇任、転任などにあたっては公正妥当な人事を行うこと。 

 人事異動に関することは、管理運営事項でありますが、これまで同様、話し合いの場を設定していきたい。令和3年度当初教職員人事異動方針に基づき、公正妥当な人事を行っていく。
2.本人の意志を尊重し、合意を前提として強制的人事を排し民主的人事を行うこと。

  本人の意向は把握するが、人事異動方針に基づく異動実現のため、教職員の協力を望む。
3.「適材を適時に適所に配置する」ことが教育の継続性や地域との関わりの軽視につながることのないよう、「地域に根ざす教育推進」の立場から、新採用5年以内異動であっても、本人の意向のない広域人事・経験人事に名を借りた不当な市町村間異動は行わないこと。

  教職員の視野を広げ、職務経験を豊かにするための異動であり、教職員の理解と協力を望む。
4.経験3年以上のすべての教職員に異動地を書かせたり、いわゆる「7年人事」を強要することなく、全県で共通する人事異動方針にもとづく対応を行うようすべての市町村教委を指導すること。

  令和3年度当初人事異動方針及び異動方針細部事項に基づき、人事異動は進めている。今後も本人と校長とのヒアリングにより、本人の意向を十分に把握して対応するよう市町村教育委員会を指導していく。
5.これまでの市町村合併によって当該市町村が広域となった場合は、転任・転補に伴い、ブロック制等の措置や、調書の異動地の範囲でなく従前の市町村単位で細分化するなどの措置を講ずること。なお、広域自治体にあっても同様の配慮を行うこと。

 市町村公立小中学校の教職員にあっては、市町村教育委員会の内申をまって人事異動が行われることから、同一市町村を分けて人事異動を考えることは難しい。 本人と校長とのヒアリングにより、本人の意向を十分に把握して対応するよう市町村教育委員会を指導していく。
6.さいたま市との交流人事については、本人の意向を十分に把握してすすめること。

  令和3年度当初教職員人事異動方針に基づき、構成妥当な人事を行っていく。
7.本人及び学校の状況をふまえて、同一校勤務年数によって機械的な人事異動は行わないこと。また、恣意的な人事異動を排除すること。 

 機械的、恣意的な人事異動は行わない。
8.学級減による過員は実情に即した措置をとることを含めて、当組合の該当する人事対策委員会との交渉で解決すること。

  過員が生ずる場合には、教職員定数を勘案し、全県的視野に立って適切に対処する。
9.「退職勧奨」については強制しないこと。また各学校に数値目標などを示さないこと。

  勧奨退職は、強要・強制するものではない。
10.客観的にみて「組合活動による忌避」ともいえるような教育事務所や市町村教育委員会による受け入れ拒否や強制異動をいっさいやめさせるよう責任をもって指導すること。 組合活動を事実上の理由にした不当な差別及び組合活動をしないことを条件とする人事を行わないこと。

  全県的視野に立った広域人事の推進のため、従前より市町村教育委員会の積極的な協力を得て進めてきたところである。 今後とも、人事異動方針に基づいた、公正妥当な人事異動が進められるよう、推進してまいりたい。
11.主任を想定した人事異動を行わないこと。主任選出にあたっては、学校管理規則の趣旨、留意事項及び「主任制度にあたっての県教委との“確認書”」に則り、主任選出が民主的になされるよう、改めてこれらの文書を配布して指導を徹底すること。

  人事異動方針に基づいて、公正妥当で適正な人事異動を行なう。 関係法令や通知の趣旨に則り、適当に運用されていると認識している。
12.思想・信条・性別・年齢・子育て・介護・共働き等による差別を行わないこと。

  差別人事は行なわない。
13.人事評価による評価を人事に使用しないこと。 

 人事評価は、公正な人事管理に資することを目的の1つとしていることから、今後、適正な人事配置に活用していきたいと考えている。 ただし、令和3年度当初人事に今年度の評価結果を活用することはない。
14.調書の記入事項及び校長によるヒアリングにより、教職員の意向を充分把握し尊重すること。意向がないにもかかわらず調書に異動地を書かせたり、調書の書き換えを強要することは絶対に行わないように指導すること。

  令和3年度当初人事異動方針及び異動方針細部事項に基づき、人事異動は進めている。今後も本人と校長とのヒアリングにより、本人の意向を十分に把握して対応するよう市町村教育委員会を指導していく。
15.人事を円滑にすすめる上からも、所属長は調書提出後から内示までの間に、本人の希望の進捗状況等についてきめ細かに状況を伝えるよう指導すること。地教委に対しても同様の指導を行うこと。

  年度当初人事異動にかかわる教職員とのヒアリングにおいて、教職員の状況を十分に把握したり、適切に情報提供したりするように、市町村教育委員会をとおして、校長に周知していく。
16.事前内示は内諾を前提として相当の猶予をもって行うこと。また、管理職ではない主幹教諭の内示は一般教諭と同日に行うこと。

  従来どおり、内示を行う予定である、 なお、内示は本人への応諾に拘束されるものではない。
17.教職員の配置にあたっては、現職優先の原則をつらぬくこと。

  現職教職員の一層円滑で適正な異動に努める。
18.「年度当初人事に関する調書」の記入や同一校勤務年数の扱いについては,細部事項・調書に関する当組合との話し合いで確認された内容を尊重すること。市町村教委・学校長に対して確認事項の周知徹底をはかること。

  市町村教委に対しても、同様の説明を行っている。
19.第三者の介入は理由の如何を問わず絶対に排除すること。

  そのとおりである。
20.母性保護に留意すること。妊娠中及び産前・産後休暇期間中の異動は、本人が積極的に希望した場合を除いて行わないこと。また、育児休業、育児休暇、介護休暇期間中の異動も同様に扱うこと。

  人事異動方針及び人事異動方針細部事項に基づき、適切に対応していく。 妊娠中、または産前・産後休暇、育児休業期間中の教職員の移動は原則として行わない。
21.雇用と年金の接続により無収入期間が発生しないように、すべての再任用希望者が希望する勤務地と形態での勤務を実現するように、市町村教委を指導すること。また、再任用教職員は新たな任用であることから、同一校在職年数に関わることなく、本人の意向を十分に把握しながら、同一校継続勤務を行うこと。

  再任用希望者には、配属の参考とするために「再任用に関する意向調査票」を配布し、希望する勤務形態や採用希望地を聴取しているが、意向に沿えないこともあるので、御理解いただきたい。 任用については、原則として同一市町村内としており、同一市町村内での任用が難しい場合、各教育事務所が調整し、勤務校を決定している。 再任用教職員の同一校在職年数については、「人事異動方針細部事項」にはよらないが、本人の意向も踏まえながら、計画的に配置するよう市町村教育委員会に働きかけていく。
22.教育事務所長・校長・教頭・指導主事等、いわゆる「管理職」の中で非民主的、独善 的な者、管理職としての適性能力を欠く者については、直ちに降職を含む配置替え等を行うこと。  管理職については、適材を適時に適所に配置する。
23.校長、教頭などの任用を民主的に行うこと。その際、特に、現場教職員の信頼度を重要な参考資料とすることができるような方策を検討すること。また、教頭は「必要に応じ児童・生徒の教育をつかさどる(学校教育法37条)」ことから、配置される校種の教員免許を所有することを前提とし、配置校において必要あるときは授業を行うことを市町村教委に指導・助言すること。

  管理職としてその職に適する資質を備えた者を登用する。また、学校の実情に応じて校種の教員免許を考慮し配置するようにしている。
24.2021年度の学級編制基準日を2021年4月1日とすること。

 令和2年度より、学級編成基準日を4月3日に変更し、学校運営の円滑化を図ったところであり、現状では困難である。
25.病休代員や産休代員、育児短時間勤務者の後補充者を含めて定数に対する未配置、未補充の絶無を期すること。急な代員要請にただちに応じるために、県教委・市町村教委内に一定の代員候補者を確保しておくこと。

  あってはならない重大な事態である教職員の未配置・未補充をなくすために、県教育委員会として、補充が必要となる可能性の早期把握による体制整備を行うなど、あらゆる方策を講じ、最大限努力していく。 退職された方に意向を確認するなど年度途中の未補充においても最大限努力していく。
26.新採用教職員の配置については、同一地教委に偏したり、同一地教委内の特定の学校 に偏したりすることのないよう適正に配置すること。 

 計画的に配置する。
27.免許外教科の担当の絶無を期すること。安易な臨時免許発行による異校種配置をしないこと。

  引き続き、免許外教科担当が生じないよう非常勤講師を措置するとともに、適正な人材配置に努める。免許外教科担当解消のために安易な臨時免許発行による配置はしない。
28.臨時的任用教職員で引き続き採用を希望する場合、その者を優先的に採用すること。引き続き同一校を希望する場合は、同一校勤務を認めること。

  臨時的任用職員の任用については、地公法22条の3によるが、「市町村教育委員会が必要と認めるとき」については、市町村立教育委員会の意向を尊重し、当該教育事務所で精査した上で、同一校への配置を行っているので、この旨を周知していく。
29. 市町村立学校から県立特別支援学校への異動を促進すること。特に、市町村立特別支援学校の教職員の異動については、県立特別支援学校と密接に連携して進めること。

  本人の意向を把握し、県立学校人事課と連携しながら進めていく。

●「異動にあたっての特記事項」欄については、埼教組の県教委交渉によって、この欄には、「異動したい理由」とともに、「異動が困難な理由」が記入できることになりました。「異動が困難」な状況があることを認めながら、3以上の市町村名の記入を強制し、しかも「異動地欄に記入がない場合は異動地について特に意向がないものとして取り扱う」としていることは、整合性がなくきわめて不当で認めることはできません。交渉で県教委は、撤回はしなかったものの「教職員の意向が十分把握されるようにしなければならない」と回答しています。調書の記入にあたっては、この「特記事項」欄に、本人が積極的に異動希望がある場合はその「理由」を、異動ができない場合はその「困難な理由(たとえば、学校内の分掌や構成、介護、保育、通勤手段等々)」を記入することが必要です。また、異動地欄への記入(特に2市町村以下の記入の場合)と、この「特記事項」欄に記入した内容との整合性がとれるよう記入することが重要です。

●「児童生徒の指導等に生かせる事項」欄については、埼教組との県教委交渉でも「記入しなくともやむを得ない」ことを確認しています。記入する場合でも、いわゆる「特色ある学校づくり」を促進したり、部活動の勝利至上主義につながるような内容を記入するのではなく、教職員としてごくあたりまえの実践上の事項等を記入することが必要です。

●私たち教職員の服務監督権は地教委(地方教育委員会)にあり、任免権は県教委が持っています。(地教行法37条)

教職員→→→→校長→→→→地教委→→→→県教委 = 発令 
   個表提出   具申     内申 
       (地教行法39条)(地教行法38条)

校長は提出された調書をもとに、地教委へ意見の申し出を文書で行います(これを具申といいます)。そしてこれは地教委で整理等の作業を行ったのち教育事務所へ集められ、教職員の異動希望の有無、退職希望の有無及び校長の意見が集約されるわけです。大体これが12月中に行われています。

1月には、教育事務所、地教委、校長による直接的な意見交換、要望集約があり、各地教委や教育事務所による具体的な作業にはいります。作業の主体が地教委を中心とするところ、あるいは相当細かいところまで教育事務所がタッチするところなど、組合の主体的力量や地域の教育をめぐる状況などから、県内でも相当の差があります。

1月の下旬ごろから2月にかけて、学校長から途中経過や、異動に対する「意向打診」などが分会人事対策委員会や個々の教職員に行われます。近年、意向打診や途中経過の説明を十分行わない管理職や地教委がありますが、人事を円滑に行うためにもこれらをきちんと行わせることが重要です。

3月にはいると、いわゆる「内示」が全県的に行われ、地教委の内申を待って発令という段取りになるわけです。

●当局側が人事問題についての交渉を拒否する理由としてよく持出すのが「人事は管理運営事項である」「人事は教職員の名誉やプライバシーにかかわる秘密事項」だという2つの誤った主張です。

●管理運営事項の論拠として当局は地公法55条3項「地方公共団体の事務の管理および運営に関する事項は交渉の対象とすることができない」を引合いに出し、教職員の人事はここでいう管理運営事項だと主張します。

地公法55条1項には「地方公共団体の当局は、登録を受けた職員団体から、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れがあった場合においては、その申入れに応ずべき地位に立つものとする」と記述されています。

管理運営事項としているものも、一面で勤務条件に密接に関連している場合が多く、ILOのドライヤー報告でも「管理運営と雇用条件の双方に影響する問題が数多くあることも認識しなければならない」として、安易に団体交渉の枠外の問題とみなすことを批判しています。勤務条件の変更をともなう転任が勤  務条件そのものであることは明白です。学校の現業職員に適用される地方公営企業労働関係法7条には、団体交渉の対象にできるものとして2号に「昇職、降職、転職、免職、休職、専任権及び懲戒の基準に関する事項」を掲げ、さらに4号で「第3号に掲げるもののほか労働条件に関する事項]を定めています。人事を交渉事項に位置づけているのはそのためです。

●もう一つの理由として出される「人事は秘密事項」という主張も正当なものではありません。もともと教職員の人事は情実を排し、客観的な基準で公明正大におこなわれなければなりません。そのことは地公法でも厳しく定められています。同時に転任処分に不満があれば不服申立てをすることができ、本人の  希望があれば人事委員会で公開審理もでき、人事に関する資料を開示させることもできます。これらのことからもともと秘密を前提としていないのです。

また、組合が団体交渉を行うのは組合員個々人の希望実現のためにまず多数の組合員に共通する課題を定めて行い、その確認事項が個々の人事に生かされて初めて交渉が意味あるものとなります。したがって個々人の人事問題も当然交渉事項になります。

●以上のことからも、人事に不必要なことを口外しないなど一定の配慮は必要としても「秘密事項だ」という理由をもって交渉を拒否することは不当です。

●内申なしに人事を決めることは許されません。地教委の内申については、地教行法38条1項で「都道府県委員会は、市町村委員会の内申をまって、県費負担教職員の任免その他の進退を行うものとする」と規定されています。

この規定で明らかなように、地教委の内申は人事権行使の必要な要件であり、内申制度によって地域に密着した地教委の意向を参考とさせ、地域的要請に応える人事行政を行わせようとする趣旨のものです。「内申をまって」という法律用語は、内申は法律上の要件で欠くことのできないものという意味をもって  います。したがって、県教委は市町村教委の内申ぬきに人事の発令をすることはできません。

また、校長の具申についても、校長や各学校の教職員集団の意見をきかなければ適正な人事をなしえないというような事案について、これを省いた場合には違法視されると考えられます。

●「組合に入ると人事異動が不利になるのでしょうか」という人がいますが、そのようなことはありません。1966・ 67年の組合員に対する不当人事とのたたかい以降、組合員に対する不当配転、強制退職などは事実として存在しません。人事が交渉事項として事実上確立されている今日、組合員だからという理由で人事上不利な扱いが当局としてできるはずがありませんし、また組合として、そのようなことをさせてはいません。例年、全体的にみて組合員の異動希望実現率は未組合員の希望実現率を上回っています。このことは、むしろ組合員であることが有利だということを示しているのではないでしょうか。

●それにもかかわらず、そのような噂が流されるのは、組合加入を阻止したり、あるいは組合離脱をはかるために、故意に流しているものと考えられ、極めて悪質な言動といわなければなりません。

Q81 再任用制度について説明してください

●1981年6月に国家公務員法が、1981年11月に地方公務員法がそれぞれ改正され、1985年3月31日から地方公務員についても定年制が実施されました。(地公法28条の2.3.4)

 これによって小・中学校の県費負担教職員は満60歳に達した日以後における最初の3月31日までに退職することになっています。

●公的年金制度の改定により、65歳まで引き上げられたことで、雇用と年金の接続による生活保障が必要となり、この制度が導入されました。

●再任用制度の対象者は定年退職者と、25年以上勤務した者であって当該退職の日の翌日から起算して5年を経過する日までの間にある者です。採用は従前の勤務実績に基づく選考を任命権者が行います、任期は1年で、年金が満額支給される年度の前年度末まで更新できます。

勤務形態は次の通りです。

 ①フルタイム(38時間45分)

 ②短時間勤務

  ・62時間(フルタイムの5分の2 週15.5時間)

  ・77時間30分(フルタイムの2分の1 週19.375時間)

  ・93時間(フルタイムの5分の3 週23.25時間)

  ・124時間(フルタイムの5分の4 週31時間)

   ※短時間勤務職員は月曜日から金曜日の間に週休日を設けることは可能で、1日につき7時間45分を超えない範囲で勤務時間を割り振ることとなります。

●責任、勤務内容、校務分掌等はフルタイム、短時間勤務いずれの場合においても定年退職前と同じです。フルタイム勤務であればクラブや委員会、中学校では部活動指導も行ないます。

●給料は、月額は職務に応じて決定された職務の級による給与月額となります。

 短時間勤務再任職員の場合は、次のように計算します。

 短時間勤務職員の給料月額(端数切捨)=フルタイム職員の給料月額×(1週間あたりの勤務時間/38.75時間)

●2020年度地公労賃金確定交渉において、小・中学校等事務職員及び学校栄養職員のフルタイムの再任用については、本人の希望を踏まえ、主任級の業務を行う場合については主任専門員とし、3級格付けとすることを実現しました。

 しかし、再任用短時間勤務については未だ2級格付けのみとなっており、今後も引き続き処遇改善を求めていく必要があります。

●諸手当については次の通りです。(フル、短時間とも同じ)

支給しない手当支給する手当等※
扶養手当、住居手当、へき地手当(準ずる手当を含む)、再任用期間に係る退職手当教職調整額、給料の調整額、地域手当、通勤手当、特殊勤務手当、時間外勤務手当、義務教育等教員特別手当、期末手当、勤勉手当、管理職手当、管理職員特別勤務手当、単身赴任手当

※短時間勤務再任用職員の場合、勤務時間で按分した給料月額を基礎として算出するものや、手当額を勤務時間で按分するものがあります。

●期末勤勉手当支給割合は次の通りです。(2021年4月現在)

〈教育四級職員(校長)〉

 6月12月
期末手当0.625月分0.625月分1.25月分
勤勉手当0.55月分0.55月分1.1月分
1.175月分1.175月分2.35月分

〈教育四級職員以外(校長以外)〉

 6月12月
期末手当0.725月分0.725月分1.45月分
勤勉手当0.45月分0.45月分0.9月分
1.175月分1.175月分2.35月分

 ※役職段階別加算については、定年前職員と同様です。(ただし、在級職要件を除く。)

 ※人事評価結果を次年度の勤勉手当に反映します(フルタイム職員のみ)

●再任用制度が導入された当初から指摘していた、再任用職員が学校現場において退職前と同じ勤務内容であるにもかかわらず、定年前の60%以下の賃金水準であること、そして定数内に位置付けられていることから生じる根本的な矛盾は、長時間過密労働による「多忙化」がさらに深刻化している現在、短時間勤務者への人事評価実施と相まって、より一層大きな矛盾となってあらわれています。さらに、再任用職員の職の内容と定数上の位置づけの問題は、再任用職員の希望に沿った働き方の保障と学校づくりの関係において、深刻な問題を生じさせています。

●再任用職員制度の抱える問題の本質は、年金支給年齢の引き上げによって生じた「雇用と年金の接続」の課題を低賃金雇用で乗り切ろうとしたところにあることはいうまでもありません。

 こうした再任用職員のおかれた劣悪な状況を放置することは、教職員の働く権利の保障及び学校づくりに背を向けることであり、県教委はただちにこうした実態を把握し、使用者責任を果たすべきです。学校で働く教職員の尊厳が傷つけられている状況を放置することは許されません。

Q82 職務命令について説明してください

●職務命令が適法であるための要件は次の4つです。

1.職務上の上司が発するものであること。

ここでいう「上司」とは当該職員の職務につき指揮監督する権限を有する者を指し、単に地位が上である者を指すのではありません。市町村立学校の場合、具体的には市町村教育委員会(地教行法43条1・2項)と校長(学校教育法28条3項、40条)となります。教頭について当局は上司だといっていますが、学校教育法28条4項、5項の規定からいっても校長が事故あるとき、または校長が欠けたときに校長の代理または代行する場合を除いて指揮・監督する権限はないというべきです。

2.命令が上司の権限に属し、命令を受ける職員の職務に関するものであること。

職務命令は「その職務を遂行するにあたって」(地公法32条)の命令ですから、その命令を発する者はその職務の遂行について指揮監督権限のあるものでなければなりません。また、法令等でその職員の職務と定められた枠の範囲でなければなりません。

3.適法な手続きで発せられたものであること。

一般的にも個別にも職務命令の手続きを定めた法令はありません。したがって様式に制限がないことから文書であるか口頭であるかはかまわないことになります。しかし、内容が複雑だったり、特に正確を期すべきだったりする時は一般的には文書によることが適当だといえます。問題はそれが、命令か命令でないのかがあいまいな場合です。本来、教育に職務命令はなじまないことから校長は職務命令と言いにくく、そこが曖昧にされることが少なくありません。命令であることを明確にしていない限り、本問でいう職務上の命令と解すべきではないといえます。

4.内容が憲法及び法令に違反するものでないこと。

行政を執行する職務についての命令が法令に違反してはならないことはいうまでもありません。法令に違反する職務命令は無効であり、これに従う義務はありません。

●以上の4つの要件を満していない職務命令は違法といえます。したがってこうした職務命令に従う義務はなく、逆に公務員は法令に従う義務がありますから違法な職務命令には従ってはならないというのが筋といえます。

しかし、このような解釈について当局は、一般に行政は一体性を保持する必要があることから「職務命令の適法性に疑義がある場合でも、その命令は権限ある機関によって取消されるまでは命令を受けた職員はこれに従わなければならない」と主張することがあります。

このような考え方は時代遅れの行政優位、権威主義的な考え方で承認できません。

●一般に職務命令が問題になるのは学校行事のもち方(入学式・卒業式・研修会等)をめぐっての場合が多いようです。このような問題について、たとえ職務命令で強制されても心を打ちこんだ教育はできないといえましょう。校長も、こうした類の問題をめぐっての職務命令はなじまないと考えている入が多いという全国的な報告結果がだされています。

意見の異なる問題についてもねばり強い話し合いをつづけることが必要です。説得と話し合いの自信をもたない校長が職務命令にたよって学校運営をすすめることは、職務命令が有効か無効かの論議の前に論外な態度と批判されるべきでしょう。

Q83 職務専念義務とは何ですか それが免除される場合はどんなときですか

●地公法35条は「職員は法律又は条例に特別の定めがある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」と定めています。これが職務専念義務といわれるものです。職務専念義務は職員の基本的な義務であることはいうまでもありません。しかし注意したいのは「勤務時間……のすべて」といっても、それは文字通り「勤務時間」そのものであって  公務員が無定量の勤務に服するものでないことは当然です。

また、「職務上の注意力のすべて」という表現を社会常識に反することまで当てはめた、いわゆる前近代的な官吏関係を残存させようとする意図でもち出すことには当然反対しなければなりません。

●職務専念義務は「法律又は条例に特別の定めがある場合を除く外」の場合と定めています。したがって法律または条例で定めている範囲については、職務専念義務は免除されます。条例上定められているものは具体的には次のような場合です。

なお、県費負担教職員の場合、免除の承認は市町村教育委員会が行うことになっています。

1.研修を受ける場合(職務に専念する義務の特例に関する条例)

2.厚生に関する計画の実施に参加する場合(職務に専念する義務の特例に関する条例)

3.人事委員会が定める場合(職務に専念する義務の特例に関する規則)

①証人、鑑定人、参考人等として官公署に出頭する場合

②選挙権その他公民として権利を行使する場合

③職務に関連のある国家公務員又は他の地方公共団体の公務員としての職を兼ね、その職に属する事務を行う場合

④法令又は条例に基いて設置された職員の厚生福利を目的とする団体の事業又は事務に従事する場合

⑤地公法46条または49条の2、1項の規定に基き、勤務条件に関する措置の要求をし、又は不利益処分に関する不服の申立てをし、及びこれらに関し、人事委員会が行う審査のため出頭する場合

⑥地方公務員災害補償法51条の規定に基づき、審査請求若しくは再審査請求をし、又は同法60条1項の規定に基づき、審査請求人として出頭する場合

⑦労組法7条の規定に違反した旨の申立てをし、及びこれに関し、地方労働委員会が行う審問のために出頭する場合

⑧地公法55条11項の規定に基き、当局に不満を表明し又は意見を申し出る場合

  ⑨県の行う任用試験又は職務の遂行に必要な資格試験を受ける場合

⑩国若しくは公共団体又は公共的団体の依頼を受けて講演、講義、演技等を行う場合

⑪県行政と密接な関係を有し、県が指導育成を行うことを必要とする団体の事務に従事する場合

⑫職員団体の指名を受けた者、労働組合の代表者又はこれらの団体から委任を受けた者として当局と適法な交渉を行う場合

⑬任命権者が特に必要と認め人事委員会の承認を受けた場

 合

Q84 懲戒とは何ですか 懲戒処分の種類と事由について説明してください

●地公法29条は職員が法令や職務上の義務に違反したり、職務を怠った場合等に任命権者が懲戒処分を行うことができる旨を定めています。分限処分との対比でいえば次のような特徴をもっています。

1.職員の道義的責任を問題にする。

2.職員の義務違反に対する制裁として行われるので、その行為が本人の故意または過失によることを要する。

3.懲戒処分の事由としては、必ずしも継続した状態ではなく個々の行為または状態をとらえるとみられる。

この制裁の趣旨は公務員の服務規律違反に対して公務員関係における秩序を維持するために任命権者が公務員に対して課する制裁であるとされていますが、いずれにしても公務員の場合、懲戒は明文の法律・条文に定める限度内で行使されることになっています。

●懲戒処分の種類、また処分の効果は次の通りです。

種類処分の内容処分の効果
免職職員をその意に反して退職させる処分・処分の日から2年を経過するまでは復職の機会が与えられない。(地公法16条3号)・懲戒免職の場合は退職年金等の長期共済給付の金額もしくは一部を止められたり、昇給や退職手当の支給を打ち切られる。ただし、退職年金は1981年以降最高60ヶ月間の一部カットにとどめられる。
停職職員を一定の期間職務に従事させない処分・期間は1日以上6ヶ月以下・停職者はその職を保有するが職務に従事しない。・停職期間中いかなる給与も支給されない。
減給一定の期間、給料の一定額を減ずる処分・6ヶ月以下の期間、給料の月額10分の1以下に相当する額を給与から減ずる。
戒告職員の服務義務の責任を確認し、その将来を戒める処分・いわば「叱る」という事実行為に過ぎないが、履歴上の「汚点」となる。・「懲戒処分」ゆえの待遇上の不利益(昇給延伸など)が伴うこともある。

●2020年、懲戒処分の基準の一部改正が行われ、「公文書の不適正な取り扱い」「パワーハラスメント」の標準例が見通し・追加されました。

〈改正の内容〉

パワーハラスメントを行ったことにより、相手に著しい精神的又は身体的な苦痛を与えた職員は停職、減給又は懲戒とする。

Q85 分限とは何ですか 分限の種類と事由について説明してください

●地公法28条は、

①勤務実績が良くない場合

②心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えない場

③公務員の適格性を欠く場合

④職制もしくは定数の改廃または予算の減少により廃職または過員を生じた場合

に、本人の「意に反する]処分を行うことができるとしています。これを分限処分と呼んでいます。懲戒処分との対比でいえば次のような特徴をもっています。

1.職員の道義的責任を問題にしない。

2.公務の能率の維持向上の見地から行われるので、その事由についてとくに  本人の故意または過失によることを要しない。

3.分限処分の事由としては、一定の期間にわたって継続している状態をとらえるとみられる。

その趣旨・目的は「公務の能率の維持およびその適正な運営の確保」とされています。しかし、この分限処分の場合も懲戒処分と同様、法律あるいは条例で定める趣旨・要件にあう場合でなければその意に反して不利益な処分を受けることはありません。

なお、分限処分として行うのではなく、公務員の「意に反しない」処分として本人の申し出にもとづいて辞職(依願退職)や休職あるいは降任の処分をすることは許されるとされています。

●分限処分の種類と、それぞれの処分ごとに発令できる事由は次のとおりです。

種類事由
免職1.勤務成績がよくない場合2.心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合3.上記1、2の場合の外で、その職に必要な適格性を欠く場合4.職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合(地公法28条1項)
降任同上
休職1.心身の故障のため、長期の休養を要する場合2.刑事事件に関し起訴された場合(地公法28条2項)
降給1.条例で規定されることになっているが、現在のところ降給を定めた条例はないのでこの分限処分がなされることはない。

●分限処分の効果としては、制裁としてなされる懲戒処分とは性格を異にするため、たとえば免職の場合に退職金が支給されないというようなことはありません。

Q86 精神疾患による休職者の職場復帰はどのように行われますか

●埼玉県における復職支援プログラムの概要(教育職員)は次の通りです。(2018年4月1日現在)

1.復職支援プログラムについて

 【内容】

 ①対象者

 県立学校教職員、県費負担市町村立学校教職員、県教育局等職員で、精神疾患により休職しているもの。

 ②復職にあたっての受講を必ず求めているか

 義務ではないものの、円滑な職場復帰を目的として、対象者は全員実施している。

 ③復職支援プログラムの内容

 職場に慣れることを目的として簡易な業務等を行う「準備訓練」を実施する。その後、職場に慣れることから開始し、最終的には復職後の業務とほぼ同程度の訓練を行う「職場リハビリテーション」を実施する。

 ・準備訓練(1週間程度)

開始2~3日目は原則として4時間程度とし、簡易な業務 を行う。

原則として開始4日目は始業時から6時間程度、5日目は通常どおりとし、簡易な業務又は休職者の分掌のうち軽易な事務を行う。

・職場リハビリテーション(4週間程度)

第1週は、準備訓練の内容を基本とし、必要に応じて他の業務を実施する。

第2週以降は、原則通常勤務と同様とし、必要に応じて適宜業務内容を変更する。

【実施場所】

休職者の所属所

④実施時期

5週間程度

⑤受講者に対する公費による保険措置

あり(損害保険に加入)

2.復帰の判断について

 ①復職を判断するにあたって教育委員会事務局職員以外で審査等を担当するもの

 ・主治医

・教職員の休職、復職等の可否を審査する「埼玉県教職員健康審査会」の委員(医師)

②復職を判断するにあたっての主な基準

・職務を滞りなく行えるかどうか

3.復職後の経過観察について

 ①復職後の経過観察の内容

 ・教職員健康審査会への状況報告

主治医の診断書及び所属長の観察報告書による。

・主治医・家族等との連携

所属長等による経過観察を行い、必要に応じて主治医・家族と連絡を取り合う。

 ②復職後の経過観察の実施期間

  教職員の健康状態について 、医学的判断に基づいた、個別に応じて必要な期間。

 ③復帰後の人事配置等の基準

  所属していた学校に配置する。所属長の判断により本人の状況を踏まえて校務分掌等を軽減している。